
歯科衛生士は定着率が低い職業のひとつとして知られており、人手不足に悩む歯科医院は少なくありません。今回は歯科衛生士の離職率や離職理由に加え、早期離職により考えられるデメリットや離職を防ぐために有効な取り組みについてもくわしく解説します。歯科衛生士の人材不足に悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
CONTENTS
歯科衛生士の離職率と離職理由
歯科衛生士は離職率が高い職業のひとつです。人手不足を解消するには、求人の強化だけではなく歯科衛生士として勤務している人を定着させるための工夫も必要です。ここでは、歯科衛生士の離職率や離職する人が多い理由についてくわしく解説します。歯科衛生士の離職率
公益社団法人日本歯科衛生士会の調査によれば、歯科衛生士のうち転職経験がある人の割合は76%以上にものぼります。中には2回以上転職を繰り返している人材も多く、歯科衛生士は定着させるのが難しい職業であることが分かるでしょう。転職を検討している歯科衛生士の割合
2019年に実施された日本衛生士学会の調査によると、調査時点で転職を検討している歯科衛生士の割合は17%以上となりました。また、これまでに転職を検討したことがある歯科衛生士の割合は約46%にのぼります。さらに、転職を検討している人材のうち20%以上は20代や30代前半の若手歯科衛生士であることが分かっています。
歯科衛生士の離職率が高い理由
歯科衛生士の離職理由として多いのは、結婚・出産・職場の人間関係・待遇に関する不満・業務内容に関する不満・教育制度への不満などです。中でもとくに多い退職理由は結婚や出産などのライフイベントです。歯科衛生士は女性が多い職業であることからも、結婚や出産を機に退職する20代・30代が多くなりやすいと考えられます。産休育休制度を使うと給料が大きく減額される・そもそも産休育休を取得できる雰囲気ではないなどの理由からも、若い女性の離職を加速させています。
また、歯科衛生士の一般的な勤務先である歯科医院はスタッフの数が限られており、スタッフ同士や院長との人間関係のトラブルが生じると修復が難しく、職場の居心地が悪くなることも離職が多い理由のひとつです。
さらに、一口に歯科医院といってもそれぞれで診療メニューが異なるのはもちろん、治療方針や使用器具、接客ルールなどにも違いがあります。これまでに歯科衛生士としての勤務経験がある人でも、新しい職場での教育体制が十分でないとスムーズに業務を進められないことから、転職を考えるきっかけとなりうるでしょう。
加えて、歯科衛生士は残業が多いことでも知られており、診療が長引いた・アポイントが追いつかず診療が押した・受付時間ギリギリに患者さんが来院したなどの理由や、慢性的な人手不足で残業が当たり前になっている歯科医院も少なくありません。拘束時間が長いことで身体的にも精神的にも負担を感じ、退職・転職を考える歯科衛生士も多いでしょう。
歯科衛生士が早期退職することによるデメリット
先述の通り、歯科衛生士は女性が多い職業であることから、結婚や出産を機に20代・30代前半などで退職する人も少なくありません。しかし、歯科衛生士が早期退職することにはさまざまなデメリットがあります。ここでは、歯科衛生士が早期退職することで懸念されるデメリットについてくわしく解説します。
指導にかけた手間や時間が無駄になる
歯科衛生士として働けるのは資格保有者のみであるため、業務についての基本的な知識・スキルは十分に備わっているでしょう。しかし、歯科医院によって治療方針や使用する器具、接客マナーなどが大きく異なることから、新たに採用したスタッフにはそれなりに指導や教育が必要です。ある程度規模が大きい歯科医院であれば問題ないですが、小規模でスタッフの人数が限られている歯科医院では、教育係としてスタッフを指導する歯科衛生士が抜けることで診療にあたる戦力が減ってしまうでしょう。
採用したばかりの歯科衛生士が早期退職してしまうとこれまでの指導・教育にかけた手間や時間が無駄になるほか、その後に採用した別の歯科衛生士に再度指導しなければならないのもデメリットとなります。
採用コストが無駄になる
歯科衛生士の採用にはコストがかかります。近年では歯科医院内での張り紙のみで求人するケースはほとんどなく、コストをかけて求人媒体や地元求人誌に掲載するのが一般的です。また、人材紹介の業者を利用すると100万円以上の報酬支払が必要な場合もあります。中には紹介した人材が早期に退職した際に支払った報酬の一部を返金してもらえる契約もありますが、返金される金額は業者によっても異なるため注意が必要です。歯科衛生士が早期離職すると採用コストが無駄になるうえ、新たな人材の採用にさらにコストがかかります。
現場の負担が増える
歯科衛生士が早退職すると教育に携わったスタッフの手間や時間を無駄にしてしまうほか、教育中も退職後も現場のほかのスタッフに業務がしわ寄せされ、残業時間が伸びてしまう恐れがあるでしょう。また、患者さんの受け入れ数は歯科衛生士を含むスタッフの人数に合わせて調整するため、退職によって予約済みの患者さんの対応が難しくなるなどのデメリットも考えられます。とくに規模が小さい歯科医院の場合は、早期退職によって現場のスタッフや患者さんに迷惑がかかる可能性が高くなるでしょう。
連鎖的な退職につながる可能性も
スタッフの多くが業務内容や拘束時間、待遇などに不満を抱いていた場合、歯科衛生士のひとりが早期退職したことによって連鎖的にほかのスタッフも退職を考えるケースもあるでしょう。その場合、まずは問題の根本となる拘束時間や待遇面を改善することが必要です。歯科衛生士自身にもデメリットがある
歯科衛生士が早期退職することでデメリットがあるのは、歯科医院やその他のスタッフたちだけではありません。早期退職した歯科衛生士本人にもいくつかのデメリットがあるため、退職を検討する際は注意が必要です。歯科衛生士が早期退職すると、次の就職先を探す際に不利になります。とくに転職後も引き続き歯科衛生士として働きたいと考えている場合には、履歴書を見て必ず早期退職について理由を問われると覚悟しておく必要があります。前の歯科医院を早期退職しているのであれば採用してもすぐに辞めてしまうのでは、と捉えられるのは自然な流れであるため、条件がよく人気の歯科医院では採用してもらえなくなる可能性が高いでしょう。
歯科衛生士は慢性的な人手不足に陥っていることから転職先がまったく見つからない事態は考えにくいものの、希望する就職先で働くのは難しくなる場合もあることを頭に入れておきましょう。また、勤務先の歯科医院で十分な知識や技術が身につく前に退職してしまうと、新卒の場合は歯科衛生士としての現場スキルが備わっていない状態で転職することになります。
スキルが不十分な人材はキャリアアップが難しくなるため、思い描いているようなキャリアにはつながらない可能性もあるでしょう。
歯科衛生士の離職を防ぐ方法
歯科衛生士の退職理由はさまざまですが、離職率を下げるには適切な対策を取ることが不可欠です。ここでは、歯科衛生士乗り職を防ぐために有効な対策についてくわしく解説します。教育制度を充実させる
歯科衛生士の仕事は勤務先の歯科医院の方針によって細かな内容が変わります。別の歯科医院でキャリアを積んだ人材でも、転職すれば治療方針や接客ルール、使用器具についてゼロから学び直すことが必要です。そのため、新人の教育制度が充実していないと分からないことばかりでスムーズに業務が進まず、さらに質問する隙がなくミスをして怒られるといった悪循環でモチベーションが低下してしまう歯科衛生士も少なくありません。歯科衛生士の早期離職を防ぐには、教育制度を充実させてていねいに業務をレクチャーすることが重要です。
たとえば、採用から3か月間は独自の教育プログラムで現場の仕事を学べるよう体制を整えれば、プログラム期間の終了後は即戦力として働けます。スタッフのサービス品質が向上することで、患者さんの満足度アップや医院のイメージアップなどの効果も期待できるでしょう。
動画のマニュアルツールを採用する
歯科衛生士の離職を防ぐには、教育制度の充実と合わせてマニュアルツールを導入することも有効です。歯科衛生士の仕事は患者さんの歯や口内環境に関わる重要なものであり、当然ミスは許されません。単純作業ではない手技やスキルが必要であることからも、紙ベースのマニュアルでは内容を完全に理解・再現できないという人は少なくないでしょう。動画のマニュアルツールを利用すれば、文字や写真のみのマニュアルよりも業務内容を正確に分かりやすく伝えられます。
実際に多くの歯科医院で採用されているため、スタッフ教育を充実させたい場合には導入を検討するのがおすすめです。マニュアルツールは新人教育に活かせるだけではなく、スタッフの担当変更時や、分院の際にも役立ちます。
人事評価制度を確立する
人事評価制度が確立されていない歯科医院では、歯科衛生士を含むスタッフが自分の頑張りを認めてもらえていないと感じて離職率が高くなりやすい傾向にあります。昇給のタイミングや賞与の金額を院長や経営者の主観で決定するのではなく、明確・客観的で分かりやすい基準を設けて人事評価を実施するようにしましょう。福利厚生などの条件面を整える
歯科医院に限ったことではありませんが、スタッフの離職防止には福利厚生の充実が不可欠です。どれほど教育制度や人事評価が整っていても、福利厚生が充実していないと職場の魅力が半減してしまいます。とくに歯科衛生士は女性が多い職業であるため、家事や育児と両立しやすい環境づくりは離職防止に非常に有効です。また、新たに人材を採用する際にも、福利厚生をアピールできるのは大きな強みになります。
風通しのよい職場環境を構築する
歯科衛生士の離職理由のひとつとして人間関係が挙げられます。新人歯科衛生士が先輩スタッフや院長との関係をうまく構築できないと、居心地が悪くなったり分からないことを質問しにくくなったりすることで、退職や転職を考えるケースも少なくないでしょう。離職率を低下させたい場合には、新人歯科衛生士がスタッフや院長との良好な関係を構築するための取り組みが有効です。たとえば、教育係やリーダーとの一対一の面談を定期的に設けるなどして、不安や悩みをできるだけ早く解消できるよう工夫しましょう。風通しのよい職場環境を実現できれば、離職率低下やスタッフの満足度向上につながるでしょう。
歯科医院の人材不足で悩んでいる場合は「採用代行」の利用がおすすめ
歯科衛生士不足に悩んでいる歯科医院では、採用代行を利用するのもひとつの手です。採用活動には求人サイトや地元求人誌、人材紹介業者などを活用するケースが多いですが、最近では採用代行を利用する歯科医院も増えています。ここでは、採用代行サービスの概要やメリットなどをくわしく解説します。
採用代行サービスとは
採用代行サービスとは業務委託サービスのひとつであり、採用業務の一部または全部をサービス業者に代行してもらえるものです。正社員の採用はもちろん、パートやアルバイトの採用にも活用できます。採用代行サービスには大きく2つの種類があり、採用プロセスのみを代行する採用プロセス代行型と、契約先にリクルーターを派遣して候補者を探し出すリクルーター派遣型に大別できます。基本的には採用プロセス代行型を利用する企業が多いです。
採用代行サービスの活用メリット
採用代行サービスは、採用業務にあたる人手が足りない場合や採用活動の質を向上さたいときに向いています。歯科医院で採用代行サービスを利用した場合、院長や歯科衛生士は採用業務に時間や手間を割くことなく普段の業務を遂行できます。また、採用業務に特化した業者スタッフに採用活動を一任できるため、応募者に対するていねいかつ迅速な対応が実現可能です。そのほかにも、採用に関するノウハウやアドバイスを提供してもらえること、データ分析による高い費用対効果で採用コストの適正化を図れることなどもメリットとして挙げられます。
採用代行サービスを利用する際の注意点
採用代行サービスにはさまざまなメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点もあります。具体的には、社内に採用が活動におけるノウハウが蓄積されにくいこと、業者と歯科医院との連携不足によってミスマッチが発生する可能性があること、応募者や内定者と歯科医院との直接のコミュニケーションが取りにくいことなどが懸念されるでしょう。定期的な情報連携や業者との認識のすり合わせ、応募者の動向確認などの対策を取り入れ、サービスを有効に活用しましょう。